お知らせ

★「久保貞次郎の会」主催の展覧会は終了いたしました。多くの方々に足をお運び頂き感謝いたします。

  【終了】企画展

 クボテーって誰?

  ――稀代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち――

会 期 :2022年10月15日(土)~ 29日(土)
休廊日 :10月16日、23日(毎日曜日)
会場名 :ストライプハウスビル M・Bフロア(1階・地下1階)
場 所 :〒106-0032 東京都港区六本木5-10-33
     Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
時 間 :AM11:00~PM6:30(最終日PM5:00まで)
主 催 :久保貞次郎の会
協 力 :ストライプハウスギャラリー

 久保貞次郎をご存知でしょうか。変わりゆく時代の中で、その名前を知る人は、少なくなってきたかもしれません。久保貞次郎 ( 旧姓小此木、1909年5月12日-1996年10月31日 ) は、美術評論家として数多くの芸術家と交流を重ね、特にデモクラート美術家協会の芸術家とは活動を共にし、異色の活動で美術業界に大きな足跡を残しました。また、海外の美術教育の新風を取り入れた創造美育協会の運動は、久保の働きかけによって全国の教師に広まりました。後年は跡見学園短期大学学長・町田市立国際版画美術館初代館長を務めるなど多彩な顔を持ち、その業績は計り知れません。
 当会は、久保貞次郎の教え子が発起人となって集まった「世話人」が、今一度久保の業績を振り返り、後世に伝えるための活動を展開しています。これまで、2回久保のゆかりの地を訪問するツアーを企画し、ゲストに芸術家や専門家を迎える活動を行いました。2018年に開催した第1回目の「久保貞次郎の会」では、ゲストに建築家の井上祐一氏を招き、栃木県真岡市に位置する久保講堂(旧真岡小学校)や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学しました。参加者の中には「虹の画家」の愛称を持つ靉嘔の姿もありました。第2回目の2019年には、自由学園明日館の見学と、世界的に評価の高い写真家細江英公と名古屋大学大学院人文学研究科教授の栗田秀法氏の対談の機会を設けました。このような参加者と著名人の触れ合いの場をつくる発想は、久保が積極的に行ってきた活動の一つです。
 今回は当会初の企画展で、久保貞次郎が作品を蒐集していた芸術家21名を紹介します。ぜひこの機会に、久保が小コレクター運動を提唱し、広めていた「作品を生活の中に向かえ入れる歓び」を一緒に分かち合い、久保が後世に遺した意思をご覧いただきたいと思います。

出品作家:靉嘔 / 泉茂 / 磯辺行久 / 内間俊子 / 瑛九 / 大浦信行 / 小田 襄 / オノサト・トシノブ / 桂 ゆき / 北川民次 / 木村利三郎 / 草間彌生 / 島 州一 / 竹田鎮三郎 / 奈良原 一高 / 野田哲也 / 細江英公 / 吉原英雄 / エメット・ウィリアムズ / ナム・ジュン・パイク / ヘンリー・ミラー


展覧会に寄せて:榎本エミ子 / 川口真寿美 / 藤沼秀子 / 秀坂令子

久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より:長瀧光子


2022年10月 第3回久保貞次郎の会

企画展 展示風景

※ 当サイトの情報を転載、複製、改変等は禁止いたします。


出品リスト 

「クボテーって誰?」展  出品リスト



展覧会に寄せて

榎本エミ子「久保貞次郎先生の思い出~絵がある家」

久保貞次郎の会 榎本エミ子🌸

私は「久保先生を囲む会」と言う会があるのを卒業してから知り、
少しですが、絵を収集するようになりました。
殆どの絵は久保先生から購入したので、先生を忘れた事は有りません。
在学中、久保先生の美術鑑賞のクラスは大人気で希望者が多く、偏るので抽選になっていました。
お陰様でクラスに入ることができました。
受講生が多いので私は目立たない存在だったと思いますが、いつも一番前の机に座り、間近で講義を聴いていました。
毎回、楽しく興味深い話なので、夢中に聴いていました。
ある時はアイスを食べながら(先生が御馳走して下さいました)。
クジで版画を下さったり、学生が買える金額で版画を頒布して下さったり、授業があっと言う間に過ぎていました。
画廊に個展を観に行ったり、オープニングパーティで画家とお話し出来る機会を作って下さったり、絵を集める興味を作って下さいました。
いつ頃からかよく覚えていませんが、「久保先生を囲む会」で先輩、後輩、皆で先生を囲んで先生の評論を聴く会で、先生のお話しはとても楽しく、仲間入り出来ることができ、卒業してまでも先生と関りを持てるなんて、素晴らしい事と思いました。
これも、先生の思いやり、また、先生の代々されていた秘書の方々が中心となって会を守って下さり、先輩、後輩達の先生を慕うお気持ちやお世話のお陰ではないかしらと感謝しています。
先生から絵を買う事も出来るようになり、自分で買った絵を飾れるようになりました。
絵が飾って有るだけでも家が輝きます!
心も落ち着きます!
絵がある家って良いですね!
先生に感謝です。

(えのもと えみこ)

榎本エミ子
2022年10月ストライプハウスギャラリーにて、榎本エミ子さん


川口真寿美「久保貞次郎先生の思い出~本物を手にする喜び」

久保貞次郎の会  川口真寿美

私にとって久保先生の思い出はそのまま仲間との思い出であり、今につづくものです。特別なエピソードというより、些細な出来事の一つひとつが仲間との会話の中でよみがえる。そんなゆるく暖かい感覚なのです。

始まりはもちろん跡見学園。久保先生のまわりにはいつも熱量の高い学生がたくさんいて何かを吸収しようという気概に溢れているようでした。先生もよく「魂が吸いとられる」とおっしゃっていられたのを覚えています(笑)。
私もいつしか吸いとるべく一員に加わり、美術館、画廊、アトリエなどをフィールドワークとした授業に勤しみました。
そんな中、衝撃的だったのは「これは贋作ですね」-ー倉敷の大原美術館で絵画を見ながらのひと言。たしかセザンヌ(?)の作品の前で放たれた言葉だったと思います。私自身、頭の中が真っ白になってしまい、以降、事の顚末は覚えていないのです。そう言えばアレはどうなったのでしょう。これを機会に覚えている人を探すとしましょう。

何をもってニセモノかははっきり言ってわかりませんが、自分が本物だと思えばそれでも良いような気もするし…
少なくとも久保先生が教えて下さった「本物を手にする喜び」は「本物を手にした時」にとても幸せに感じるということ。

私にとってH.ミラーの「いつも愛を」はそんな作品です。ミラーの訃報に接した時、何としてもあの「愛」が欲しいと思ったのです。
1980年の6月、私の誕生月に久保先生に請い、以来、我が家のリビングの特等席に掛っています。

※大原美術館での事ーセザンヌではなくゴッホ。のちに当時の同行者が曖昧な記憶を正してくれました。
(かわぐち ますみ)

久保先生別荘の前にて 久保先生と世話人4人
軽井沢の久保先生別荘の前にて、 久保先生と世話人4人 1991年

川口真寿美
2022年10月ストライプハウスギャラリーにて、川口真寿美さん


藤沼秀子「久保貞次郎先生の思い出~竹田鎮三郎/思い出のテワンテペック」


久保貞次郎の会  藤沼秀子

レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉です。
「一切の生命の根源は、運動である。動的な生命現象を絵画表現の中に描き出すこと」

竹田鎮三郎「思い出のテワンテペック」」

「思い出のテワンテペック」1975年 竹田鎮三郎

竹田先生の「思い出のテワンテペック」は、激しく動いています。しかも確かな熱を帯びて輝いています。

………今日は、ディア・デ・ムエルトス(死者の日)、待ちに待った「晴れ」の日です。
女たちは、毎日の心配事から解放されて、一年間貯めに溜めた、うっぷんやストレスをエネルギー源にして爆発します。
豊かな髪にお気に入りのリボンを三編みに編み込み、チクチクと刺繍し手仕事で、この日の為に用意した、マリーゴールド色の入ったドレスを身につけています。

さぁ、広場へ急ぎましょう。

踊りの輪の中心には、太陽と月の女神がピラミッドから駆けつけています。

女たちの熱気で、熱上昇気流が起こり、パペルピカード(カラフルな飾り紙)やサボテンまでもが宙を舞っています。

いよいよ空が割れて、錦糸のような光の帯が現れます。

それを合図に、(ちょっと見はカラベラ骸骨ですが)懐かしい父や母や、マエストロが美しい音楽を奏でに遠くの楽園から会いに来てくれます。

男たちは、ソンブレロを深く被り、女たちが作ってくれたテキーラを舐めながら優しく見守っています。
………

こんな物語を想像してみました。

竹田先生は、絵にはストーリーが必要だとおっしゃっています。

この絵は、私が跡見短大を卒業して7~8年後、どうしても大きな油絵が欲しいと久保先生にお願いして、購入しました。

100万円と、当時(今も)の私には初めての高額なお買い物でした。
私は、竹田先生の泥くさい生命力(失礼)や、ストレートな欲望の表現に大変惹かれていました。

40年近く前の事なので、詳細は忘れてしまいましたが、当時、故 清水たま子さん(久保先生の秘書をされていました。後に竹田先生の優秀な秘書となられる。絵本作家 代表作:ワニのお嫁さんとハチドリのお嫁さん)が盛んに勧めて下さったのを覚えています。

100万円と高額であったので、気の小さい私は、久保先生から購入したという文書を下さいとお願いしました。
今考えると、赤面な行動でしたが、当時は失礼だと思い付きもしませんでした。

久保先生は、直ぐに、素敵な和紙の便箋に、久保先生の律義な筆跡と、
何と実印(だと思われます)を押印した証明書を送って下さいました。

竹田「思い出のテワンテペック」久保証明書

しかも、久保先生自ら、竹田先生の「大作」と記載して下さったのです。

嬉しくて嬉しくて、無くしてはならじとタンスの奥にしまい込みました。

今回、ストライプハウスギャラリー展示に向けて、タンスから出してみて思いがけない発見がありました。

表題が「インディオの女たち」1970年作
となっていたのです。

竹田鎮三郎「思い出のテワンテペック」サイン

家にある絵を確認したところ
1975年
となっているではありませんか。

メキシコの地で、岡本太郎巨大壁画「明日の神話」制作を支えた関係で2015年岡本太郎美術館で開催された、
「竹田鎮三郎 メキシコに架けたアートの橋」
直前の2013年に開催された、青山のギャラリーでの、竹田先生叙勲記念の展覧会で頂いたパンフレットには

Memoria de Tohuantepec 1975
とあります。

久保先生の中のイメージで

「インディオの女たち」

と表題をつけて下さったと考えます。 本当にありがたい「副題」です。

制作年1970年→1975年
はミステリーなので、調べる楽しみにわくわくします。

竹田鎮三郎「思い出のテワンテペック」」

又、絵の左面下方に、絵の具の
剥落があります。
剥落は、購入後、大分経って気が付きました。

ある時、来日していた竹田先生にお会いして、その旨お話すると、

「あー簡単ですよ。ちょちょと直します。持って来て下さい。」と、おっしゃって下さいました。

先生のお住まいの、メヒコのオァハカまで、大型の絵を持って行くのは、はぁ大変です。

1990年の上記画集でも、剥落が確認できるので、久保先生所蔵時からあったのではと、推測されます。

絵の勲章のようなものですね。
久保先生は、私のような一般人にも絵を持つ楽しみを教えて下さいました。

決して、Top Downは行わず、私たちに考えるチャンスを与えてくれる先生でした。

久保先生著作「版画コレクションの手引」日本リーダーズダイジェスト社1981年

を読み返していますと、如何に久保先生がアートの普及に尽力し、
ヘンリー・ミラー曰く
惰眠を貪る大衆」にも、一筋の光を与えて下さった事が新たに思い興されます。

しかも、大変気長な根気を持って。

竹田先生の絵は、40年近く我が家にメキシコの風を送ってくれました。

オークションです。

次は、あなた様の番です。

(ふじぬま ひでこ)

***

藤沼秀子「久保貞次郎先生の思い出~ヘンリー・ミラー


久保貞次郎の会  藤沼秀子

久保先生の残した言葉です。
.………………………………………………………………
ミラーの絵の特長は、自由であること、一切を受容する広い精神が溢れていること。
ユーモアにみち見飽きることがない。
いくら凝視していても、こんこんと湧きいでる泉のように新鮮な思想が浮かんでくる。
ミラーの思想の抜群な点は鮮明であることであった。社会の束縛から開放されようと熱烈な意欲に燃えて、反逆し、力強く、デリケートであり、これだけの巨人が文学のほかに、絵画のジャンルで、自己を真摯に表現したことは、人類の文学史上極めて稀なケースであり、ミラー研究には欠かせぬ役割を果たすであろう。
…………………………………………………………………

かつて、「君看双眼色、不語以無愁」と称された久保先生が、
なぜヘンリー・ミラーに夢中になったのでしょうか?

久保先生とミラーの絵の出会は、1955年ブリジストン美術館と記録にありますが、ミラーの小説との出会は定かではありません。

しかしながら、頭に鉄槌(久保先生の雅号)を下された出会であった事は、後の久保先生の言葉で証明されます。
そして、1955年のミラー絵画との出会いとは

例えていうならば、77万年前の地磁気逆転を体現したような衝撃だったのではと想像します。
久保先生のミラーへの熱い思いは、周りにも、幸福をもたらしています。

瑛九は、ミラー絵画を見た衝撃を
「おそろしく自由だなぁ」と称しています。

久保先生はミラーの水彩画のほか、ミラーの手紙の大コレクターでもありました。
ある時、ロチェス(Hミラーアーカイブスのあった、久保先生宅の近隣のマンション)で、私たち、ピーチク煩い跡見の卒業生に、ミラーの手紙を見せ、
「さて、この単語は何かわかりますか?」と質問されました。
「My stery」
私たちは、マィ ステリィ? 綴りを間違えたんじゃ等と、貧弱な想像の答えをしました。

久保先生は、前後の文脈から考えるに、  Mystery だと教えて下さいました。
久保先生も、この謎解きに一瞬迷われたのではと思いました。
久保先生の浮き浮きとした表情から、ミラーの手紙に対して、凄く大切に、何回も読み直して大事に思われているのだなと伝わった瞬間でした。

久保先生のミラー水彩画への
情熱を身近に観ているうちに、
欲しくて欲しくてたまらなくなり、

私たちは、ロチェスで、久保先生にかなり無理を言って、
ミラー水彩画をそれぞれ購入しました。

あのミラーの水彩画が、我が家に来るという、あの時の興奮は、今も続いています。
我が家には、「シャムの夜」「明るい幻想」「海底」の3点がやってきました。

左から《明るい幻想》、《シャムの夜》、《海底》

「シャムの夜」は、1952年ミラーが世界中を旅して、各国で水彩画の個展を開催した時期に重なります。
セリグラフの原画となっています。

………  南国の暑さと湿気で、赤い血液の中にいるような、気だるさに包まれた、深夜でしょうか。
一艘の小船が、昼間は出歩くことが許されない王族を、どこかの秘密の場所に誘う様な、妖艶な空気を漂わせています。   ………

「明るい幻想」は、1958年、久保先生とミラー水彩画の出会(1955年ブリジストン美術館)の直後に描かれています。

……… 生まれて来て良かったと思える瞬間です。

 何もかもが生命の喜びに溢れています。
悲しいことなど存在しない、楽しくて楽しくて仕方ない子供時代の時間たちに、平和の鳩や太陽や月や星が微笑を贈っています。

臍の緒が付いた赤ちゃんも、早くこの世界に来て、皆んなと遊びたくて仕方ありません。

沢山の優しい目が、憧れを持って見守っています。  ………

「海底」は1967年ミラー76歳の時の作品です。
ホキ徳田さんと結婚した年です。
幸せの絶頂期でしょうか。

………  海底 は、自由です。
とことん自由です。
瑛九のいった、「おそろしく自由だなぁ」の世界です。
皆んな、わいわいと会話を楽しんでいます。例え、明日誰かに食べられても、この自由は終わりません。
あれ、人間が一人迷いこんでいます。でも、海の住人たちは気にしません。
全てを受け入れ、毎日楽しく暮らす術を知っています。

本当の自由を知らない地上の人間たちを、ちょっと哀れに思いながら  ………

ストライプハウスギャラリーに展示される3点の、ミラーの水彩画から
物語を想像してみました。

オークションです。

次は、あなた様の番です。

ミラーの水彩画に会いに来てください。
是非、六本木ストライプハウスギャラリーを覗きに来てください。

あなた様の中に、どんな物語が生まれて来るのでしょうか。

(ふじぬま ひでこ)

ストライプ・ヘンリー・ミラー
藤沼秀子


秀坂令子「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」

久保貞次郎の会  秀坂令子

2018年、久保貞次郎(1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子たちが発起人となり、『久保貞次郎の会』 を発足しました。 微力ですが毎年イベントを企画し、活動を進めたいと思っています。

第1回(2018年)は、建築家井上祐一氏による解説で栃木県真岡市の久保講堂や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にも参加頂きました。

第2回(2019年)は、フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学 し、細江英公先生と栗田秀法氏(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。

第3回として、2022年10月15日(土)~10月29日(土)六本木のストライプハウスギャラーにて、 「クボテーって誰? 稀代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」を開催致します。
当会初の展覧会を通じて、久保貞次郎が作品を蒐集していた芸術家21名を紹介します。
出品作品は私たちのコレクションから持ち寄り、全点を入札方式(オークション)で頒布いたします。

「クボテー」とは、久保を知る美術関係者、そして学生間でも呼ばれていた愛称です。創造美育協会の指導者・美術評論家・新しい芸術とその運動のパトロン・現代美術のコレクター・跡見学園短期大学学長・町田市版画美術館館長・エスぺランチストとして実に多くの顔を持っていたクボ・サダジロウですが、時としてクボ・テイジロウと書かれたものもあります。1973年「版画芸術」第3号より抜き刷りのヘンリー・ミラー版画総目録にはクボ・テイジロウと署名されていました。どのように使い分けしていたのか、今や知る由もありません。

私のコレクション第一号は、北川民次のエッチングでした。
跡見短大学生の時、友人と共に久保先生にお願いして何枚かの作品の中から選んだ作品です。特別価格にしていただいたとは言え、身銭を切って作品を選ぶという緊張感は、自分の審美眼を学ぶ瞬間でもありました。久保先生が提唱した「小コレクター運動」は、3点以上の美術品をもっているひとは「小コレクター」と名のることができるというもので、コレクターという言葉を身辺にひきよせました。それまで展覧会や、画集で見るものと思い込んでいた美術品の新たな見方に遭遇した瞬間でもありました。保育園で絵画教室をされていた私の知人が1984年お亡くなりになられた時、「小コレクター運動」から何十年もの間に買い集めた作品の数は計り知れず、中でも北川民次の全版画をコレクションしていたことに驚きました。後にまとまった金額で美術館に収蔵されたと聞いた時、一個人のコレクションの集大成を垣間見た気がしました。作品を購入することは、作家を経済的に支えるだけでなく、作家を支援することになるという教えは、今どきの【推し活】に通じるものがある気がします。跡見学園短大の教え子たちは、久保先生を囲む会(頒布会)に参加し、先生から新しい作品や知識を得る事を愉しみとしていました。権威主義、通俗主義を嫌い、自由な心をもつ久保先生の教えは、我々の無垢な心を取り戻す原動力になっていました。そしてサービス精神旺盛で啓蒙家だった先生は、皆に会う前には山のような資料を準備することを惜しみませんでした。常に複数冊の書物や資料を持ち歩いていた先生の姿を思い出すとき、ビニール被せ手提げ袋は忘れられません。気取らず合理的だった先生らしいカバンでした。

久保先生は、版画の版元としても多くの作家の作品を作り、その普及活動に貢献しました。靉嘔作品「Rainbow landscape Lithograph」もその一つです。久保先生の軽井沢の別荘の階段に飾られた作品を初めて見たとき、レインボーの色がナイーブで気になっていました。そしてそれは『虹 靉嘔版画全作品集1954-1979』によると、「リトグラフではどのようなレインボーが得られるか知りたいため、久保さんが開拓された桐生の町の印刷屋荻野栄一郎さんに刷ってもらった作品である。」と書かれてありました。

軽井沢の久保貞次郎別荘前
(左から藤沼秀子、榎本エミ子、久保貞次郎、川口真寿美、秀坂令子 1991年)

1955年ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)で開催された水彩画展で、久保先生はミラーの水彩と出合い、愛らしく自由な精神をもつ作品のとりことなり、3点の水彩画を購入されました。その一枚が今回展示する版画「子供っぽい夢」の原画です。版画の色分けは小田襄が行いました。久保先生が版元として作ったミラー版画は1987年のリストで40種類にもなりました。東京のご自宅に裏にあった、事務所の名前もヘンリー・ミラーアーカイブスとし、ミラーの絵画の魅力を広めようと最後まで尽力されました。

ヘンリー・ミラーアーカイブスにて
(1984年頃)

今回の展覧会会場となるストライプハウスギャラリーは、1981年のオープン以来久保先生との縁も深く、開館時のご挨拶文も久保先生が書かれました。今回展示の靉嘔内間俊子小田襄オノサトトシノブ桂ゆき木村利三郎竹田鎮三郎の展覧会も開催されました。40年以上もの歴史を持つ建物も、六本木の都市開発で数年後には無くなる予定です。久保先生が亡くなられ26年ですが、いろいろな縁がつながれて、展覧会というかたちが実現致しました。ここでまた新しい縁が広がることを期待してやみません。

秀坂令子
靉嘔「Rainbow landscape lithgraph A」の前で。秀坂令子さんは久保先生の秘書をつとめ、会場となったストライプハウスギャラリーの初期スタッフでもあります。

(ひでさかりょうこ)


長瀧光子「真岡市ゆかりの美術評論家・久保貞次郎 久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より」

真岡市教育委員会文化課学芸員 長瀧光子

真岡市(もおかし)は、栃木県の南東に位置し、いちごの生産量日本一として知られる自然豊かな地域です。美術評論家・久保貞次郎(くぼさだじろう 1909-1996)は、かつてこの真岡に暮らしていました。「クボテー」と呼ばれたこの人物は、児童美術教育の改革や、芸術家たちのパトロンとして戦後の日本美術の発展に貢献し、晩年は跡見学園短期大学学長、町田市立国際版画美術館館長を務めるなど偉大な功績を残しました。

①久保貞次郎肖像
①久保貞次郎肖像 1981年

真岡市荒町にある久保貞次郎の旧邸もかつては、「久保邸(くぼてい)」と呼ばれました。真岡市では、久保家をはじめとする関係者の方々から保存を前提とした「久保邸」の譲渡の申し出を受け、真岡市の観光文化拠点施設「久保記念観光文化交流館」として2014(平成26)年に開館しました。

②久保記念観光文化交流館
②久保記念観光文化交流館

久保記念観光文化交流館の入口にある木造積石造の「久保記念館」は、明治40年に建てられ、かつては「日本銀行宇都宮支店真岡出張所真岡支金庫」として使われていたといわれ、真岡登録文化財になっています。1階に観光案内所、観光サロン、真岡木綿の展示室があり、2階には久保貞次郎の功績を紹介する久保資料室が設けられ、ご遺族から寄贈された貴重な資料の展示や映像コーナーがあります。
1909(明治42)年に栃木県足利市の金物店を営む小此木家の次男として生まれた貞次郎は、1933(昭和8)年、24歳の時に真岡の資産家だった久保家に婿入りし、「久保」と改姓します。当時、東京帝国大学大学院に在籍し、社会教育を専攻していた久保が美術に関心を持つきっかけとなったのは、成蹊高等学校時代の恩師・舎監の三上英生から美術鑑賞を学んだことが最初でした。また、1935(昭和10)年にエスペラント学会の活動を通じて、前衛画家・瑛九と出会ったことや、児童美術教育の師として頼りにした北川民次との出会いにより、美術評論家への道を進んでいきました。
施設の中央には、美術品のコレクターとしても有名だった久保の絵画コレクションを飾っていた「久保ギャラリー」で使用していた「暖炉」がモニュメントとして設置されています。久保ギャラリーは、1943(昭和18)年に著名な建築家フランク・ロイド・ライトの高弟・遠藤新の設計により建てられましたが、道路拡幅と老朽化のため1996(平成8)年にやむなく取り壊しになったそうです。

③久保家、牛込
③久保家、牛込 1936年2月11日 前列左より瑛九、三上英生、佳世子夫人、後列左、久保

④北川民次米寿祝い
北川民次米寿祝い 名古屋日動画廊にて 1981年 左より、久保、北川

モニュメントの暖炉よりも奥に位置する大谷石造りの「美術品展示館」は、1923(大正12)年に米蔵として建てられ、1957(昭和32)年にはアトリエに改修され、かつては「久保アトリエ」と呼ばれました。この建物にも、久保の絵画コレクションの一部が飾られ、大胆にもその外壁に、瑛九オノサト・トシノブ靉嘔池田満寿夫泉茂から贈られた絵画が飾られていました。久保アトリエは、久保が主宰した真岡近代絵画鑑賞頒布会が行われるなど、芸術家たちが集うサロンのような場所だったようです。

⑤美術品展示館
⑤美術品展示館

真岡市では、2013(平成25)年に久保のご遺族から、版画を中心に、油彩画、水彩画など、約1500点以上の久保コレクションの寄贈を受けました。作家数は89名にも及び、実に幅広い久保の交流関係をうかがい知ることができます。主な作家は、前衛芸術を志した瑛九オノサト・トシノブ靉嘔磯辺行久池田満寿夫、メキシコに渡った北川民次、竹田鎭三郎、ニューヨークで活躍した木村利三郎、飯塚国雄など、それぞれが独自の道を歩み、戦後の日本美術を語る上で欠かせない存在ばかりです。また、久保と親交のあったアメリカの小説家ヘンリー・ミラーの絵画コレクションも多数収蔵しています。美術品展示館では、久保コレクションや、久保や瑛九などとも交流のあった額縁作家・宇佐美兼吉から1994(平成6)年に寄贈された宇佐美コレクションを中心に、年に数回の企画展を開催し、真岡市ゆかりの美術を紹介しています。

⑥久保貞次郎と久保アトリエ外壁の様子
⑥久保貞次郎と久保アトリエ外壁の様子 上左:オノサト・トシノブ《壁画A・B・C・D》、上中央:瑛九《カオス》、上右:靉嘔《四つの雲》、下左:池田満寿夫《運行》、下右:磯辺行久《火が燃える》 上左と上中央は東京都現代美術館蔵、他は真岡市蔵

⑦真岡近代絵画鑑賞頒布会
⑦真岡近代絵画鑑賞頒布会 久保アトリエにて 1961年 左より、宇佐美兼吉、久保、佳世子夫人

施設内には、他にも観光物産館やレストランCOCORO、また、明治12年に建てられたなまこ壁が特徴的な土蔵造りの観光まちづくりセンターがあります。
久保貞次郎ゆかりの歴史的建造物「真岡市久保講堂」(国登録有形文化財)は、久保記念観光文化交流館から徒歩約15分の場所にあります。1938(昭和13)年に、久保貞次郎の義祖父・久保六平の80歳の記念に久保家から真岡小学校に寄付され、設計は建築家・遠藤新によるものです。この久保講堂では、毎年秋に、「芳賀教育美術展」が開催されています。この展覧会は、久保が1957(昭和23)年に設立した「創造美育協会」の理念(子ども中心主義)を継承し、2016(平成28)年からは「子ども審査会」という子どもの主体性を重視する取組も展開されています。この流れを受け、真岡市では、展覧会「もおか子ども美術館」を久保記念観光文化交流館美術品展示館にて、昨年初めて開催しました。もおか子ども美術館では、子どもが自由に絵画や立体工作を楽しむイベント「ワークショップフェスタ みんなの久保アトリエ」により制作された作品を募集し、「子ども学芸員」が作品鑑賞とキャプション制作を行い展示する、子どもたちの手による展覧会です。会期中は子ども学芸員によるギャラリートークも開催します。創造美育の理念に基づいた現代創美の新たなムーブメントとなる本展は、10月27日(木)~11月27日(日)まで開催予定です。未来を担う子どもたちの生き生きとした自己表現をお楽しみいただけることでしょう。また、久保コレクションも様々なテーマで順次紹介しています。ぜひ今後の企画展もご期待ください。

⑧美術品展示館展示風景
⑧美術品展示館展示風景

(ながたき みつこ)
※本ブログの記事・写真は掲載許可をいただいて掲載しています。

[現在開催中]
●真岡市まちかど美術館常設企画展「愛のカタチ ~絵画に見る愛情表現~」
前期:2022年9月8日(木)~11月7日(月)/後期:2022年11月10日(木)~2023年1月9日(月・祝)
真岡市久保記念観光文化交流館「芳賀教育美術展関連企画 歴代の知事賞展」
2022年9月22日(木)~10月24日(月)


★2022年1月:「久保貞次郎の会」活動再開しました。 

★2021年5月:「久保貞次郎の会」HPリニューアル しました。